拡樹くんの一般舞台は珍しくないけれど、変わったテイストのお話だなと思った本作品。
ヒモ男と中年女性のドロドロ恋愛劇と見せかけてのハートフルなお話かと思っていたら、全然違ってました(いい意味で)
もちろんチケットをとるつもりだったけど、職場の県外移動禁止令で断念。
本日(10/2)配信開始したので、さっそく視聴。
うろ覚えなところとか意訳ありです。
しかし配信チケットが本当にチケットでした。
コンビニから印刷したのですが、これいるの?って思いました。
普通は支払いが終わったら配信ページから見られますよね。
記念にとっておけってことかな?まあいいか。
時子さんのトキ あらすじとキャラクター
まず最初に思ったのは、やっぱり劇場で見たかったなーということ。
でも、久しぶりの拡樹くんの演技を堪能できて満足です!
少人数現代劇もいいもんだなあ。
ゲネ動画を見て、衣装はシンプル、セットも変わらないのを知っていたので、質(内容)はどうなんだろうなと思っていたけど、そんな心配を払拭するよき舞台でした。
コロナ禍の習慣もうまく演出に組み込まれていて、ソーシャルディスタンス舞台としても興味深く感じました。
時子さんと登喜以外の人物は白い衣装。
小物や靴で変化をつけ(ウイッグも少し)必要最低限な着替えで済むように工夫されています。
主に会話劇と時子さんのナレーションで話が進みます。
(実はここめっちゃポイントです。時子さんのナレーションということは時子さんの主観で話が進むということです)
ところどころ挟まるコミカルな部分が面白く、最後までだれずに見られます。
時間は1時間45分とコンパクト。でも中身は濃い。
内容は軽いとは言えないけど、そこまで重くもなかった。
時子さんが翔真に出会い彼を応援するためお金をあげる関係に、というのが流れの主軸。
そこから色んな人が絡んできて、最後には時子さんの世界が暴かれていくというような話です。
時子さんをめぐり話の流れが前後するんだけど、全然こんがらからなくて分かりやすい。
キャストの皆さんがうまくてテンポが良いので、ストレスなく見られます。
時子さんと翔真、登喜の話が中心だけど、シーンのあちこちで考えさせられる舞台でした。
翔真と登喜
拡樹くんの薄いコートのような羽織りものにスリットが大きく入っていて、ひらひらしてて、目がそっちにばかりいきますね。
コートさばきがさりげなくきれいでさすが。
現代劇でも舞台所作が美しさは健在。
ビジュアルも声もほぼ素の拡樹くん。等身大の現代劇。
メイクも最小限だし、あまりこういう舞台がなかったのでこれはこれで新鮮。
登喜(中学生)はとらのすけとの落差が面白い。
とらのすけは、中学生をうまくデフォルメしててうまいなと思いました。
中学生ダッシュ拡樹くん早すぎで笑ってしまった。
思春期と母親に対する感情がおっつかなくて、ぶっきらぼうなのがかわいい。
登喜(大学生)はデニムジャケットが萌え袖でした。
スマホ触りまくりでそつなく母親と会話する大学生。
合い鍵を母親に渡すのを嫌う大学生がやけにリアルです。
多彩な登場人物
時子さん役の高橋さん以外1人で2~3役ぐらいはやっている感じ?、多彩なバリエーションで飽きさせない工夫がされています。
しかもどの人物もリアルで、身近に実際にいるような錯覚を覚える。
私的にすごいなあと思ったのはスーパーのおばちゃん(とらのすけの母)
ママ友とスピーカーママを兼ね備えていて、あるあるすぎるおばちゃんです。
乾物担当社員のこういうちょっともったりした感じの人が面白い。
柏木はいやらしいしゃべり方で、時子さんを救うつもりで、どんどん追い詰めていく感じが怖かった。
小夏は若いママが売れないミュージシャンにはまってしまう人物。
翔真に抱き着いた時みたいに、本来はかわいい女性なんだと思う。
時子さんのトキ 考察
非常に考察しがいのある話。
見える部分(時子さんの主観で話が進んでいる)以外にも何かありそうで、それを舞台から読み取るのが難しいなあ。
じっくり見るともっといろいろ発見できると思う。
時子さんが翔真に期待する「理想の人」
時子さんが翔真にお金を与え続けたのは自分の「理想の人」になって欲しかったのかなと感じた。
いなくなった(離れて暮らすようになった)登喜の代わりみたいな?
お金をあげ続けられるならずっと依存したままなのかも。
翔真にお金をあげることで翔真がクズになるのを手助けしてしまった部分もあるから、共依存の関係ともいえるね。
他の女(小夏)にもお金を借りるクズだけど、うーん、まあクズか。
翔真は気の弱い人間で子供っぽいところがある(「いい年」して夢を追っているのもそう)
手助けしてくれる人が現れたら、坂を転がり落ちてしまった感じ。
でも翔真は見返りなしでお金をくれる時子さんには罪の意識があったと思う。
だから今までの借金額を書いていたんだろうな。
むしろ恋愛関係になってしまえば、ギブ&テイクの関係になったら翔真の罪の意識は薄れていたかも。
キスしようとするシーンあったけど、あの時翔真は実家に帰るつもりだったから、感謝のキス?お別れのキス?分からない。
あのシーンは翔真が苦悩していて(夢をあきらめるから)どういう解釈も当てはまるよなあと思った。
結局時子さんに折れてさらなる借金をしてしまうわけだけど。
翔真は優しいクズ。
すごく嫌悪感を抱くクズではなくて人間の弱さや優しさも持ってる。
当て書き(役者を決めた後で話を決めていく)だから拡樹くんの翔真のイメージなのかな。
爽やかさや清廉さ、儚さがある翔真だったように感じた。
だから見ている方(客)も翔真がクズだと思ってるけど、キライにはならない感じ。
時子さんは登喜を大切にしているように見えるけど?
よく考えれば、時子さんも相当アレな感じではある。
登喜の子供時代のかくれんぼ遊びは時子さんがコントロールする意図的なもの。
絵で金賞をとったのも時子さんの指導があったから。
ゲームも多分登喜がねだらなかったんだと思う。
過干渉な母親なのかな?子供をコントロールしようとする毒親に近いかも。
時子さんと離れることで、登喜は自分らしくのびのびと成長し、時子さんが一緒にいたらできなかった事をやることで、普通の子に育ったんだと思う。
「お母さんは絶対自分から離れないって思ってた」という登喜の言葉通り、登喜はお母さんを慕っているのは間違いない。
だからこそ時子さんと登喜がずっと一緒にいたらどっちもがつぶれていたと思う。
時子さんから見た夫はDⅤや浮気でとんでもなかっただろうけど、夫の「ご飯を作ってない」みたいなセリフがあったので、この人は???って思った。(時子さんが「いつもいないから作ってない」みたいなことを言ってたけど)
このあたりから、時子さんに対しても疑問を感じ始めるんだよね。
DⅤ夫が時子さんを登喜に依存させる原因になったのは間違いないけど、DⅤ夫にさせたのは誰?ってね。
(一般的なDⅤを擁護するわけではなくて、この話に限って言えばのことです)
DⅤ夫も完全な悪者ってわけでもないんだよなあ。
ちゃんと登喜の携帯を連絡してくれたり、会わせてくれたりしているし。
全てに因果関係があるのかも。
崩れる世界
全員集合のスナックのシーンは圧巻でした。
自分の世界が崩れて行くのを必死にとどめようとする時子さんが必死すぎて、高橋さんの演技はさすがとしか言いようがありません。
翔真への執着がさらけ出されるシーンで、時子さんが必死になるほど周りが冷静になっていくのが怖い。
登喜のことを思い出し、翔真のお母さんと話したことで世界は完全に崩れ、土下座する翔真にすら何も感じなくなったシーン。
白い衣装と話のピースがぴったりはまったなと感じた部分です。
ハッピーエンドなのか疑問が残る
柏木の出現で時子さんの世界は崩れてしまった。
けれど、登喜の気持ちを知ったことで時子さんのファンタジーは終わり、現実に戻れたわけです(登喜は衣装に色がある)
登喜の絶対的信頼はもともと最初からあり(時子さんだけがそれを知らなくて空回っていたんだけど)、これが時子さんを救うことになるんだよね、皮肉だ。
時子さんサイドから見るとハッピーだよね。
でも翔真から見たらどうなんだろう。
時子さんの翔真に対する気持ちが薄れて、時子さんの中では「どうでもいい人」になったのが良くもあり悲しくもあり。
登喜とは親子だし、結果的にうまくいったわけだけど、逆に考えたら翔真が犠牲になってないか?とも見れてしまうところにこの話の面白さがあるのではないかな。
翔真も大事な家族のもとに帰れて、がんばってお金を返していって、ハッピーと言えばそうかもしれないけど。
結局翔真が何を考えていたのかよく分からない部分もある。
これをハッピーととるかバッドととるか難しいなあ。
時子さんに共感するか、時子さんに対してもどかしく思うかは観客にゆだねられるので、それぞれの立場で見ることができると思います。
翔真の嘘
そういえば、演出家さんに拡樹くんが「ここは翔真が嘘をついている」と言われたシーンがどこか分からなかった。
実家の話は本当で、時子さんからもらった大金を実家にあげたのも本当なんだよね。
実家が大変でバイトをしてた話は本当かな。
お母さんの歌作るぐらいだから、家族は大事だったんだよね。
時子さんのお金で見栄張って借金返してたので、親にはいい顔したいんだろう。
それ以前のバイトやパチンコの話は嘘もあるよね。
時子さんに対しての部分に嘘が混じってるのだろうけど、よく見返さなきゃ分からないな。
翔真がクズで嘘つきで気弱で、時子さんをうまく操っていたとかなら合点がいくのだけど、翔真は悪い意味でいい人だからなあ。
劇中でちりばめられた情報以外は考察するしかないけど、そこがこの舞台の面白さだと再確認しました。
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